不登校の子がいる親の会が集まり、当事者に寄り添い社会に発信
不登校を考える親の会ネットワークふくおか
「不登校を考える親の会ネットワークふくおか」は、福岡県内で活動する、不登校の子がいる親の会15団体が集まり、2021年に設立されました。サポートブックの発行や行政との面談、講演会、情報交換を通じて、学校に行きづらい子と保護者に寄り添いながら、不登校に関する社会の理解促進にも取り組んでいます。
不登校の子の親として、チラシに違和感
不登校の小中学生は増加傾向にありますが、「身近に相談先がない」「学校や社会から理解されなくて辛い」という親の悩みが大きな課題となっています。
「不登校を考える親の会ネットワークふくおか」が立ち上がったのは、共同代表を務める大石くみさんが抱いた違和感がきっかけでした。大石さんはわが子が不登校になり、相談先に困った経験から、2019年に福津市で「不登校から育ちを考える ひなぎくの会」を設立。活動する中で気になったのは、福岡県教育委員会が毎年発行する「福岡アクション3」のチラシでした。福岡アクション3は、不登校に関して「未然防止」「早期発見・対応」「不登校になった場合」の3ステージで家庭における取り組みが示され、子どもを通じて保護者に配布されます。「チラシを見た保護者から『辛くなって泣いた』『悲しくなった』といった声が多く聞かれました。保護者が読んだときに、自分を責めてしまったり、焦りを感じる可能性があると私自身も思いました。もっと安心できる相談先の情報などが載っていると助かると感じました」 と大石さん。
県内の団体が集結して、行政と面談
そこで、県教育委員会に自分たちの意見を届けようと、大石さんは県内各地で活動する不登校の子がいる親の会に声をかけ、2021年に「不登校を考える親の会ネットワークふくおか」を立ち上げました。所属団体は福岡市から北九州市、宗像市、福津市、行橋市、春日市、大野城市、久留米市、三瀬郡大木町、筑後地区まで広がっています。ネットワークの共同代表には春日市と福岡地区で「えがおの会」を16年運営する杉浦しのぶさん、事務局には久留米市の「ダンデライオン 不登校ひきこもりを考える親の会」代表の内山忍さんが就任しました。
3人は県教育委員会に出向き、担当者に自分たちの思いを伝えました。「当事者である親としての実感と、行政の方の視点には違いがあると感じることもあり、そうした思いを率直にお伝えしました。ただ、県が発行するものに特定の団体の情報を入れるのは難しいと言われました」と大石さんは話します。
それなら自分たちで保護者視点の冊子を作ろうと、グリーンコープの助成金を受けて、2022年6月に「学校に行きづらい子と親のサポートブック」が完成。わが子の不登校を経験した親の目線で、支援組織や親の会、親と子の居場所情報、15歳からの選択肢などが優しいトーンで紹介されています。県内の行政施設や教育施設に配置し、同団体のホームページからもダウンロードできます。
行政に声が届き、当事者と支援の輪が広がる
サポートブックの発行記念として、長年、不登校支援を展開している長阿彌幹生さんをゲストに迎え、翌月に講演会を開催。大野城の本会場のほか、福津と筑後にサテライト会場を設け、オンラインでの参加も募ったところ、約100人の参加がありました。2024年にも長阿彌さん、2025年には立花高校の齋藤眞人校長など3人をゲストにトークライブを行い、どちらも参加者が200人を超える盛況ぶりでした。県教育委員会との面談も継続しており、少しづつ良好な関係が築かれ、2年前から県が発行する「福岡県不登校児童生徒支援リーフレット」に親の会の情報が掲載されるようになりました。
杉浦さんは「ネットワークを立ち上げたとき、各団体はできたばかりでしたが、今は地元でしっかり活動されていてすごく頼もしい。子どもの権利を守れる人のつながりが広がっていくのがうれしく、これから会を立ち上げたい人がいたらサポートしたい」、内山さんは「どこに相談したらいいか分からなかったという人からの問い合わせが増えてきて、ネットワークを作って良かった。自分の団体の活動で悩んだときに相談できる仲間もできて心強い」と話します。今後について、大石さんは「不登校で悩む親子が孤立しないように、これからも行政や団体と情報交換を重ねながら、新たな団体や個人とつながっていきたいと思います。 そして最終的には、『不登校』という言葉すら必要なくなり、学校に行く・行かないで悩む親子がいなくなることを願っています」 と力強く語りました。
(取材/2025年8月)