子育てとキャリアを両立できる社会へ~起業セミナーを開催し、実践の場も提供~

 NPO法人福岡県ママのキャリアセンター

 NPO法人福岡県ママのキャリアセンター(以下、ママキャリ)は、子育てとキャリア形成を両立できる社会の実現を目指して、子育て世代の女性が中心になって立ち上げた団体です。
 福岡市を拠点に、子育て中の女性向けのセミナーやイベントなどを開催しています。2016年の設立から8年間でサポートしてきた女性は、1000人以上にのぼります。

人手不足に悩む企業と働きたい母親をつなぐ

 ママキャリは2016年に設立されました。代表理事の藤高昌子さんは、立ち上げの経緯をこう語ります。「私が社会保険労務士として働いていると、中小企業のお客様から、人がいない、採用してもすぐに辞めてしまうというような人材に関するお悩みを聞くことがよくありました。一方、ママ友と話すと、子育てのために仕事を辞めたらブランクが長くなって、再び仕事を始めることが難しいという人が多くて。それなら双方を結び付けられるといいなと思い、NPO法人を立ち上げることにしました」。

 そんな藤高さんの思いに賛同して理事に名を連ねたのは、社会保険労務士の仲間をはじめ、キャリアコンサルタントや保育士、絵画や音楽の先生など、女性や子どもに関わる仕事をしている女性たちでした。

資格取得のために講座を開き、再就職を支援

 出産を機に離職した女性は、2人目のお子さんが小学校に行くタイミングで再就職を希望することが多く、10年ほどブランクがあることも。すると就職がなかなか難しいという現実がありました」と藤高さん。それなら、資格を取得すれば仕事を探しやすくなると考え、ママキャリでは簿記や医療事務、秘書などの資格試験への合格を目指す、各種講座を始めました。受講希望者は多く、簿記の資格を取得して会計事務所に就職する人も出てきました。

 また、福岡市NPO活動推進補助事業としてロールモデルを紹介するサイトを運営したり、企業へのインターンシップをアレンジしたりと、多方面から再就職を後押ししました。しかし、活動するうちに、子育てをしながら未経験の分野を勉強して資格を取るのは、かなりハードルが高いと分かったそうです。

 「50人で講座を始めても、3か月の期間中に抜けてしまう人が多く、最後まで受講する人は数人。そして、試験に合格して就職できたのは1人というときもありました」。そのうちコロナ禍になり、子育て中の女性が望むような非正規やパートの求人自体が激減し、厳しい状況になりました。

得意なことを生かしたスモールビジネスのサポートへ

 藤高さんたちは話し合いを重ね、方向転換を図りました。「資格を取って就職を目指すのではなく、自分の得意なことでスモールビジネスをしたい人が増えていると思ったんです」。

 2021年から年1回、「ママキャリ起業セミナー」をスタートしました。自宅や自分の住む地域でスモールビジネスをしたい人を対象に、事業計画や広報、会計、法律など、起業時に必要な知識やスキルを学ぶ全6回のセミナーです。「クッキーを作って売るためには許認可が必要で、手作りの小物をオンラインで取引するのにもルールがあります。個人では分かりづらい法律のことをはじめ、開業届、経費の取り扱いなどについてもお伝えしています」。さらに、「ママキャリ親子フェスタ」を定期的に開催し、起業セミナーの卒業生がステージやブースで活躍できる場を提供しています。

 

 ゴールを就職からスモールビジネスに切り替えて、3年が経ちました。「夢を叶える人をサポートするようにしたら、1回のセミナーで50人中20人ほどは実際にスモールビジネスを始めています。皆さんイキイキと楽しそうで、法人を立ち上げて本格的にビジネスを展開する人もいるんですよ。仲間がたくさんできて、活躍する人が身近にいることで自分も頑張ろうと思えるような、とてもいい循環ができています」。

 セミナーの受講料を低く抑えているため、補助金や助成金を活用しても資金面は大変という藤高さん。「でも、理事たちもお互いに学び合えて、夢を叶えていく女性の姿にやりがいを感じています。これからも子育てとキャリアを両立できる社会を目指して、活動を続けていきます」(取材/2024年8月)