困難な問題を抱えた全世代の女性と子どもを幅広い専門家がサポート

一般社団法人ソーシャルワーク・オフィス福岡

一般社団法人ソーシャルワーク・オフィス福岡は、福岡県で困難を抱えている全世代の女性を支援するため、2019年に設立されました。社会福祉士や公認心理師などの専門スタッフによる夜回りや相談、関係機関への同行、研修会など、幅広い活動を展開しています。

 

警固公園の夜回りをきっかけに団体を設立

夜回り

ソーシャルワーク・オフィス福岡の代表理事を務める大西良さんは、筑紫女学園大学の准教授です。子どもの心と福祉に関する研究を行っています。同法人を立ち上げたのは、学生と始めた活動がきっかけでした。

「2018年に受け持った大学院生が、福岡市の警固公園に夜集まる子どもたちの研究をしたいというので、一緒に行きました。すると若者たちのコミュニティがあり、福岡市内をはじめ県内各地、遠くは鹿児島や山口から来ていました。居場所がなくて、自傷行為を繰り返したり、オーバードーズ(市販薬の過剰摂取)や飲酒などにつながっていたりする子もいたんです。そんな状況の子たちを支援したくて、夜回りをして街頭で声かけを始めました。すると福岡県で支援事業が始まるということで、これを受託しようと、2019年6月に一般社団法人を立ち上げました」と大西さんは設立の経緯を説明します。

現在は県から「福岡県困難な問題を抱える女性への支援事業」の業務委託を受けています。法人の常勤メンバーは大西さんと、医薬品の登録販売者と社会福祉士の資格を有する前田春菜さんの2人です。ほかに、小児科の医師や精神保健福祉士、臨床心理士、公認心理師、福祉施設の職員など、心と福祉の専門家が13人そろっています。

アウトリーチや相談、同行などの支援活動を展開

同法人では、全ての世代の女性を対象として、さまざまな活動を展開しています。メインはアウトリーチです。

警固公園などの公園、子ども食堂、親子で参加するイベントなどにスタッフが出向いて、子どもや保護者の困りごとを聞いたり、相談窓口を案内したりしています。また、悩みを抱えた女性に対して、公認心理師などの専門家が対面や電話、メール、LINEで相談を受けています。さらに、必要に応じて公的機関への同行、子どもたちが眠ることで心身の健康を促進できると伝える睡眠教育(通称、みんいく)、NPO職員などに向けた研修会なども実施しています。「子どもと女性の支援が共通した軸で、対象やアプローチを変えながら、いろいろな活動をしています」と前田さんは話します。

警固公園での夜回りを始めて、6年ほど経ちました。「前は高校生が主流でしたが、最近は中学生が増えて中には小学生もいます。声をかけると家のことや友達のこと、悩みなどをどんどん話してくれます」と大西さん。2024年9月からは毎月第2土曜の午後6~9時に、公園内の安全安心センターで「まちの保健室」を開いています。「1回目から毎回欠かさず来てくれる子がいます。家では兄弟が多くてお世話もあって、親となかなか話せないと。その子は今ではスタッフのようになっていて、利用者と支援者の境目がないんです。会いに行きますと言ってくれるのがうれしいです」と前田さんは手応えを感じています。

ママカフェ
ママカフェ

各団体や専門家と連携して、取組を広げたい

今後について、大西さんは「まちの保健室のような取組を県内で増やしていきたい。もともとはオーバードーズやリストカット防止の啓発、体の不調のケアを想定していましたが、とにかく話を聞いてほしいという子が多くて、県内各地でニーズがあると思います」と語ると、前田さんも「まちの保健室でもこども食堂でも、子どもにとって話を聞いてくれるおとながいることは大事だと実感しています」と続けます。

 また、警固公園の夜回りひとつとってもいろいろな団体が活動していて、もっと横で連携していきたいという思いもあります。「子どもにはいろいろな顔があって、場所によって見せる顔が違います。行政と民間などがみんなでつながって考えることで、いち早くSOSをキャッチできて、より良い支援ができるでしょう。また、今は医師や社会福祉士、心理士、保育士などに参加してもらっていますが、専門的知識のある人の幅も広げていきたいです。同じ子どもでも、医師から見る様子と保育士からの見え方、心理士の見方など、立場や専門性によって見え方は違ってきます。あえて広くいろんな視座を集めて、全体的に子どもを包んでいくことが大事だと考えています」と大西さん。これからも多方面の人たちとつながり、子どもと女性を支援していきます。
(取材/2025年3月)

まちの保健室
まちの保健室