手の温もりが伝わるケアで、老若男女の心身に安らぎを
認定NPO法人 日本セラピューティック・ケア協会
「認定NPO法人 日本セラピューティック・ケア協会」は、英国赤十字社が確立した手のぬくもりを通して行うケア法の「セラピューティック・ケア®」を日本で普及させるため、2005年に福岡で設立されました。
今では北海道から沖縄まで日本中に900人以上の会員を擁し、韓国と台湾にも資格習得者が増え、海外展開へ活動が広がっています。
英国赤十字社で確立されたセラピューティック・ケアを日本へ
日本セラピューティック・ケア協会は、現在名誉理事長を務める秋吉美千代さんの情熱によって誕生しました。
もともと日本赤十字社福岡県支部でボランティア活動をしていた秋吉さんは、1999年に60歳で英国赤十字社を訪問した際にセラピューティック・ケアに出合い、スキルを習得しました。
ケアを考案されたスコット女史から、私が訪問した前年に美智子上皇后がケアを学ばれて『日本国民がこのケアを知ったら喜ばれるでしょう』とおっしゃったことなどを聞き、このケアを日本で広めてほしいとテキストなど一式を託されて、ぜひやろうと決意しました」と秋吉さんは当時を振り返ります。
老人福祉施設やホスピス、被災地、子育て支援の場などで活動
「セラピューティック・ケアは、オイルや道具などを使わず、両手で首や肩、腕、ひざ下などに圧をかけて優しくなでることで、緊張した体と心をほぐします」と秋吉さん。言葉だけではなく、手のぬくもりを通じて心を通わせる「ノンバーバル・コミュニケーション」でもあります。
秋吉さんはまず、福岡の老人福祉施設や病院をボランティアで訪問しながら、ケアのことを知ってもらうために講演や講習を行いました。全国に会員が増える大きなきっかけになったのは、愛知に本社をおく医療・介護専門の出版社から、セラピューティック・ケア®の通信講座を受託し、2011年にスタートしたことだったそうです。一般の方から専門職までを対象にしたさまざまな講座を考案し、資格制度も整えたことで、仲間がどんどん増えていきました。
現在は全国の会員が、100ヶ所以上の老人福祉施設や病院の緩和ケア病棟、ホスピスなどを定期的に訪問して、介護や看護を受けている人だけでなく、介護や看護で疲れているご家族にも施術をしています。また、被災地の避難所や仮設住宅、子育て支援の現場へケアに出かけたり、小・中・高校や大学、専門学校では学生を対象として講話と実技演習を行ったりしています。これらの訪問活動は全てボランティアです。「緊張したり疲れたりしている方に心を込めて施術をしていると、心身がほぐれリラックスされて、とてもいい表情になるんですよ」とやりがいを語ります。
さらに協会では、ケアの効果を科学的に立証するために大学研究者と共同研究にも取り組み、その成果を学会で発表しています。
生老病死のあらゆる場面で有効なケアをもっと広めたい
2020年、秋吉さんからバトンを受け継ぎ、城戸由香里さんが理事長に就任しました。
秋吉さんがNPO法人格を取得したのは、活動を次の世代につなぎたかったからです。「私もまだまだ頑張りますが、こうして安心して将来を託せる方が現れて、とてもうれしく思っています」と笑顔をみせます。
理事長になられた城戸由香里さんは、高齢者介護施設の責任者をしているとき、セラピューティック・ケアのことを知りました。「施設の職員さんたちが看取りをされて、『自分は何もできなかった…』と涙を流されることが多くありました。それで職員さんたちがこのケアを学び、利用者さんに施術すれば、利用者さんはもちろん職員さん自身も癒されると思ったんです」と城戸さん。
日本でゼロから始めたセラピューティック・ケアは、これまで22年で講座や講習を通して5万人以上との出会いに恵まれてきました。生老病死の全ての場面で有効なケアとして取り入れられて、喜ばれてきました。
「今、日本では留学生が介護の現場に入ってきていますが、言葉の壁があってなかなかうまくいかないこともあります。でも、セラピューティック・ケアを学べば、言葉ではなく手の温もりを通じて、いろいろな人に心の温もりをお届けすることができます。イギリス発祥のこのケアを、日本はもちろんさらに世界へと広げていきたいと考えています」と城戸さんは熱く語りました。
(2021年6月取材)